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 堀木園芸のブログは、筆者が謁見、拝聴、体験した事を先方の許可なく掲載させて頂いております。

 ご抗議や削除を求められる方は、
下記のアドレスまで、ご連絡下さい。



  堀木 園芸

horiki_rozen@ybb.ne.jp


Weblog  ブログ


2008年8月26日(火)
「 宵の口 赤日溶かす 茜雲  

 何事であれ「タイミング」と言うものは万事において要である。

 

 心遣いもタイミングを外せばお節介。

 

 英雄もタイミングを外せばテロリスト。

 

 貴重で高級な花を育てていようが、需要が無い時に出荷しては二束三文になってしまう。

 

 それ程、重要な「タイミング」など全く無視の我が家のバラ達の中で、回復してきた相場に申し合わせたかの様に花を咲かせてきた娘達がいる。

 

 「ワンダーウォール」と「バイアモーメント」だ。

 

 採花一回目というのは、まだ花色が確り出ていないが、それでも最近は花きり、選花作業が楽しい。

 

 決して、既存のバラ達をないがしろにしている訳ではないが、新品種が切れ出す時は何やら楽しい。

 

 買って来たばかりのお気に入りの靴を履いて、出掛ける時の様な気分に似ているかもしれない。

 

 定植した時に想像した一面の「ワンダーウォール」「バイアモーメント」のお花畑が眼前に広がっている。

 

 ついつい嬉しくて固切り(蕾が咲いてないうちに切る事)してしまう。

 

 開花と共に雰囲気と表情を変える彼女達をご覧頂ければ幸甚である。

 

 堀木園芸渾身の力作だ。

 

 そんな楽しみを家族に奪われては一大事である。

 

 うっかり寝坊してしまっても、何事も無かったかのように「ワンダーウォール」達に鋏を入れる。

 

温室にこっそり潜入するタイミングが最も重要だ。








2008年8月23日(土)
「 コマーシャル ~ パパメイアン編 ~  

 「やっぱり止めとけば、良かったな・・・。」と思いながら、慎司は車窓から夕闇迫る街を見ていた。

 

 電車の中の人々の視線が中年と花束というミスマッチに注がれる。

 

 

 営業回りの電車の中、車内に悲鳴めいた泣き声が響き渡る。

 

 小さい子供を抱いた、まだうら若い母親が、車内の隅に立ち子供をあやしている。

 

 昼が近いのに混雑していて、子供の奇声が只々人々に降り注いだ。

 

 「うるせぇんだよ。」

 

 まだ、年端も行かぬ若者が呟いた。

 

 慎司は鋭い視線で睨み、すばやく立ち上がった。

 

 悪辣な態度とは反対に、気の小さい若者は慎司に脅え、寝たふりをした。

 

 大柄な慎司は若者に近寄り、たっぷり威圧した後、今にも泣きそうな若い母親の元に
向かう。

 

 「もし良かったら、あの席に腰掛けて下さい。」

打って変わって優しい声で微笑みかけた。

 

 「ありがとうございます。でも座ると泣き止まなくて・・・後少しで降りますから。」

 

 子供を抱きかかえるには、あまりにもか細い母親は、目を真っ赤にして何度も頭を下げた。

 

 明らかに年下のその女性に敬意を感じ、母の偉大さに胸を打たれた。

 

 男の無力感に、大きな体を小さくして電車を降りる。

 

 自分の母親のことを思い出した。

 

 まだ小さかった時分、だだをこねて母親にしがみ付くと、母はいつも優しく、自分が泣き止むまでおんぶしてくれた。

 

 自分の母親と先程の若い母親を思い重ねて、目頭が熱くなり、急に母親に会いたくなった。

 

 

 一日の仕事を終え、電車を乗り継ぎ1時間半。

 

 花束を持って歩く道中は、かなり恥ずかしかったが、知らなかったバラの香りと母親の喜ぶ顔を想像すると「たまには悪くはないな。」とニヤニヤしながら生家を目指す。

 

 ありふれた毎日を特別な一日に

 

 「ありがとう」に香りを添えるパパメイアン

                          Product by 堀木園芸


2008年8月12日(火)
「 牽制  









「今年の夏は暑い!」

と、皆口を揃えて言う。

 

 基本的に寒い夏であっては困るのだが、しかし暑い。

 

 先日、扇風機を探しに電気店に訪れてみると、今年は異例な程、扇風機が売れているらしい。

 

 こう暑いと必然とバラの単価は暴落する。

 

 カーネーションやトルコキキョウ、菊に比べれば、花足の早いバラが倦厭されるのは、残念ながら理解は出来る。

 

 私が東京の世田谷花き市場で研修をしていた時、研修終了の半年ほど前に入社してきた後輩がいる。

 

 「後輩」とは言っても、私が世田谷花きの研修を終えてから、早5年の歳月が流れ、その間彼はずっとバラ担当をしているので、今更、先輩面する気は毛頭ない。

 

 しかし、数ヶ月一緒に働いた時の印象の為か、まだまだ半人前と厚顔にも侮っていた。

 

 先日、安値を記録した時に謝意の電話をしてきた。

 

 この時期は毎年安いので、然程気にはしていないが、興味本位に

「今、どんな気分?」

と、聞いてみた。

 

 彼は「くやしいです。」と答えた。

 

 その瞬間、私は彼に今までより一層の信頼を置いた。

 

 価格が安くなって、「すみません」「厳しいです」「売れません」「むりっしょ!」と電話をかけてくる人は多い。

 

 しかし、仮に本心でなくても生産者と同じ気持ちに立ち、再起を誓ってくれれば、農家は幾らか報われる。

 

 電話の一本で、農家の信頼を得られれば、市場の人間としては一流であろう。

 

 灼熱の季節が過ぎ去り、秋には高品質のバラがたくさん切れる。

 

 その時には農家も市場もお花屋さんも潤えるように、今暫らく忍ぶことにしよう。

 

 そうすれば扇風機など要らない。左団扇である。


2008年8月7日(木)
「 コマーシャル  ~ グランス編 ~  

 詰まっているメモリーの重要性とは無関係に、軽い音をたてて携帯電話が、 
地面の上を転がる。

 

 軽く振りかざしたつもりが、呆気なく宙を舞い、無残にも2つに割れた。

 

 

「今日は一緒に出かける約束でしょ!?」

 

 またもや約束を裏切られ、激昂する妻の目を置き去りに、いつも通り

「仕事だから。」

と言って無愛想に家を出た。

 

 急遽、休日出勤を強いられ、後輩の市岡が迎えに来る最寄りのコンビニに向かった。

 

「お疲れ様です。いいんですか?洋子さんは?」

「ああ、いつもの事だ。」少しため息をつく。

「先輩の携帯さっきから呼び出しましたけど、モメていました?」

 

 咄嗟に携帯電話を忘れたことに、気付く。

「あれ?洋子さんじゃないですか?」

 

 いつも妻を褒めちぎる市岡は、素早く車を降りて挨拶をするが、
空気の悪さを嗅ぎ取り、直ぐに乗車した。

 

「忘れ物!私はあなたの世話だけをすればいいの?」

 

 一瞬、感謝したものの、火を付けられた。

 

 黙って携帯電話を奪い取ろうとした瞬間・・・・弾け飛んだ白い影は、脆くも粉々に。

 

 驚いて怯む妻は、目に涙を浮かべ、走り去って行った。

 

 二つに引き裂かれた電話を拾い上げ、車に乗り込む。

「行くぞ!」

市岡は何も言わない。

 

 

 出だしの割には順調に片付いた仕事の帰り、携帯電話を買い換える為に
市岡を付き合わせた。

 

 データを再入力すると、電話帳の一番始めに「ようこちゃん」と、
付き合いだした頃のままの登録があった。

 

「もう一軒付き合って貰ってもいいか?」

そう私が言うと、市岡は嬉しそうに車を走らせる。

 

 ありふれた毎日を特別な一日に

 

 「ごめんね」が言えない不器用な人はグランス



                     
                     
Product by  堀木園芸


2008年8月4日(月)
「 You know   

 私は病的に、人が多く集まるとこへ赴くと、必ずと言っていい程、人間観察をしてしまう。

 

 また、目の前の人と話していても、周囲の会話に聞き耳を立ててしまう。

 

 日々観察をしていると、間々目にすることがあるのが、

「聞き手が、完璧に話を聞く意欲を無くしているのに、絶好調で話し続ける人。」

である。

 

 もうどうでも良くなっている空返事と、引きつる愛想笑いに何故語り手は、何も察知できないのであろう。

 

 一度でいいから、「しらねぇよ!つまんねぇんだよ!」と言ってみたくなる。

 

 

 お気付きの方はいるだろうか?

 

 我が家のベンデラは全てが10本縛りでなく11本縛りである。

 

 ベンデラは花弁が弱く、傷が付きやすい。

 

 しかし、少しでも開花している状態で出荷したい為に、保険で1本多く入れている。

 

 如何にベンデラの注文が多くても、高価格の時でもそうしている。

 

 つまり、100本仕入れれば110本入っている。1000本仕入れれば1100本入っている。(お徳だ!)

 

 また、最近我が家の出荷箱にホームページのアドレスを付け加えた。

 

 生産者の意図とは裏腹に、箱などには目もくれないお花屋さんは多いが、少しでも興味が湧いて頂ければと思い、加えてみた。

 

 他にも小さいこだわりはいっぱいある。

 

「しらねぇよ!」

 

 そんな声が聞こえてきそうで、いささか怖いので、しょぼんとしてこの辺りで〆よう。










2008年7月31日(木)
「 前門の虎、後門の狼。  












 数週間前に全国の漁業者のストライキが行われたのはご存知であろう。

 

 TVや新聞でも大きく取り上げられ、一時世の中の話題を席巻した。

 

 ストライキ翌日、報道各社は東京の築地市場の状況を報じた。

 

 言うまでも無く、日本で最も有名な魚河岸である。

 

 築地では、一部の魚に僅かな値上がりはあるものの、殆ど通常のセリと変わらないといった風であった。

 

 視聴者も「全国の漁師がストを起こしても、この程度のものか。」と思われたかもしれない。

 

 しかし、実際はそうではない。

 

 日本において最大のマーケットである東京の市場が「魚がない。」となれば、この国に魚などいないであろう。

 

 現実に、海の無い長野県の鮮魚市場は、魚が無い為に営業を休んだ。

 

 影響というものは必ず、末端から現れるものだ。

 

 政府は漁業者に燃料の補助をするだろう。

 

 国の生産業を守るのは、国の礎を守っている様なもので、大変重要である。

 

 しかしながら、私は化石燃料に明るい未来が見えない。

 

 滴り落ちる多量の出血に絆創膏では間に合うまい。

 

 しがみ付いて地獄の底まで行くか、新たな資源を求め地獄に踏み出すか。

 

 今はまさに分岐点であろう。

 

 我が家では、夏場の品質向上の為、夜間冷房を始めた。

 

 夜間に温室を締め切る為、害虫の侵入も防げるだろう。

 

 しかし、高級品の化石燃料が燃えて生み出した電気を喰い、勢い良く動くエアコンに、私自身もジレンマを感じて已まない。


2008年7月29日(火)
「 魔の山間部  

 かつて鎌倉時代においては、武家だった堀木家も安土桃山時代に敗走し、今となってはエリート農家になってしまった。

 

 農家というのは、毎日農作物の状態を注意深く観察しなくてはならない。

 

 よって観察眼が次第に養われていく。

 

 先日、お花屋さんが見学に来られた。

 

 東京の「花遊」のデザイナーの相澤さんと社長さんとスタッフの方だ。

 

 中央道、高井戸ICから松川ICまで3時間(私であれば2時間強、父であれば1時間50分。)の道のりをお越し頂いた割には、瑣末な圃場とバラしかないのだが、大変嬉しい限りである。

 

 そして、今回の訪問と歴訪された方々を観察していて、私は一つの説を導き出した。

 

 本当に花好きな人は、温室を見学している内に、栽培ベッドの奥の方まで、ガンガン入って行く。

 

 例え、おしゃれな格好をしていようが、背広であろうが、バラの棘に阻まれようが、お構いなしだ。

 

 奥地に入って、バラを見ては写真を撮り、葉や棘の様子を観察している。

 

 しかも出てこない。

 

 数人で来ていれば、開花しているバラを見つけては、お連れ様を呼ぶ。

 

 掃除が行き届いてなかったり、目に見える病気などが発生していないか、こっちは冷や冷やものだが、我が家のバラを見て喜んで頂ければ、こちらとしても嬉しくなる。

 

 そういう情熱のある方に、我が家のバラを手掛けて頂けるかと思うと、安心して手塩にかけた娘達を嫁がせることが出来ると言うものだ。

 

 言うまでも無く、魅力的なバラを作っていなくては、お客様を温室の奥に惹き込む事も出来ないであろう。

 

 今後も多くのお客様を、温室奥部に惹き込める様に努めたい。

 

 遭難者続出で「バミューダ・トライアングルの堀木」と異名が付けば、武士だった御先祖様も満足なさるだろう。

 

*飛び込みや一般の方の来園はお断り致します。









2008年7月25日(金)
「 西嶋さんもう少し待って下さい。  











 「エロかっこいい」とか「キモかわいい」という言葉がある。

 

 若者の流行語と呼ぶには若干遅いかもしれないが、「エロチックであるがカッコイイ」「気持ち悪いようで可愛い」という意味合いだ。

 

 こういった表現はけして新しくない。

 

 東北地方の方言で「めぐさめんこ」という言葉があり、「めぐさい(不細工)」と「めんこい(かわいい)」が合わさった言葉だ。 

 

相対する、またはジャンルの異なる趣を持ち合わせることによって、単純な一つの味わいのものより、向上していると言えよう。

 

世の中には往々にして存在する。

 

犬でいえば、「パグ」や「ブルドッグ」などはまさに「めぐさめんこ」そうであろう。

 

 我が家の夏場の隠しアイテムでもある「洋梨」もそうである。

 

 洋梨と言えば「ラ フランス」が有名であるが、我が家の洋梨は「バート」という品種である。

 

 「バート」は、実が小粒のうちから変形が始まり、早稲である為に、7月のこの時期から装飾用であれば、収穫できる。

 

 日本において「梨」と呼ばれるものとは、形状において著しく不恰好である。

 

 その形状もまちまちで、同じ変形を持っているものは、なかなかない。

 

 そうであっても、憎めない不細工さ加減とライムグリーンの艶やかな実が、夏の蒸し暑さの中に一時の清涼感を与えてくれる。

 

 たまに収穫してバラと共に出荷しているので、お気に入って頂ければ幸いだ。

 

 私自身も異なる2つの味わいを持つ事によって、より深みのある人間になりたいと思ったが、注意しなくてはならない点は、「キモかわいい」は「気持ち悪いけど、かわいい」ということで、可愛いに部類される。

 

 間違っても「カワきもい」にならない様にしなくては。



2008年7月21日(月)
「 緑陰に 記憶を手繰る かの薫り  

 よく友人、知人に「何曜日が休みなの?」と聞かれる。

 

 バラ屋に定休日などない。

 

 その最たる理由が、朝夕の花切りがあるからだ。

 

 我が家では、ほぼ365日の毎朝夕に花切りをしている。

 

 もちろん冬場や、閑期になっている品種の温室に花切りに入っても、数本しか切れない時もある。

 

 そうであっても、花切りにはそれ以外にも大事な仕事がある。

 

 観察である。

 

 ただ単に花だけを切るのではなく、樹の状態を見て、病害虫の被害にあっていないか、葉焼け、花焼け、栄養不足に陥っていないか、水は切れていないかを観察する。

 

 もちろん花切りを行いながらではあるので、多少の見落としはあるが、バラの状態を見続ける事に意味がある。

 

 我が家の様な小規模農家であっても、バラの株は裕に1万株を超えている。

 

 その一株一株に毎日接する機会こそが、花切りなのである。

 

 大変ではあるが、楽しみもある。

 

新品種が切れる初切りの時、超高品質のものが切れた時、高値の時期に大量に切れた時である。

 

 その中でも最も幸せな瞬間は、切りたてのバラが己の腕の中で香り出す瞬間である。

 

 現在、市場流通しているバラは香りの少ないものが多い。と思われがちであるが、実際のところ温室にいるバラで香りの無いものなどない。

 

 おそらくは、長距離輸送、冷蔵保存の影響で香りが弱まってしまうのではないだろうか。

 

 採花直後のバラはどの娘も香る。

 

 香りの弱いものであっても、左腕の中に数十本と抱き寄せるうちに、香りも濃厚になる。

 

 香りの強い「イントゥリーグ」「パパメイアン」などは、強く魅惑的な香りに目眩がしそうである。

 

 毎日そんな香りに包まれていれば、おのずと私もいい香りになる筈なのだが、夕方には若干の加齢臭が・・・・。

 

 お出かけの際にシャワーは欠かせない。



















2008年7月19日(土)
「 Imprinting  









「オレンジジュース!」 召し上がれ☆

 「刷り込み」という現象には怖じるものがある。

 

 鳥が生まれて直に見たものを、親と認識するというものだが、それだけではない。

 

 特定の物事が深層に記憶され、その後の生活に影響を及ぼすということだ。

 

 亀の檻で飼育された孔雀が、繁殖期に亀に対して尾羽を広げたことがあるらしい。

 

 

「朝の果物は金」という格言があるが、朝は果糖やビタミンを豊富に含んでいる果物を、摂取するのは一日のスタートに最適らしい。

 

無論、果物に限らず朝食は大切であるが、今となっては大喰らいの私も、幼少時代は虚弱体質ですぐお腹を壊したり、体調を崩した。

 

朝食など以ての外で、朝から冷たいものなど口にすれば覿面にトイレに駆け込んだ。

 

そんな私も三十路近くなり、縦にも横にも成長を遂げ、今となってはだいぶ頑丈に成ったものだ。

 

これも偏に、両親や家族のお陰である。

 

もう一人(?)私の成長に欠かせない存在が牛である。

 

私は本当に母乳より牛乳で育ったといっても過言ではない。

 

朝は流石に飲めなかったが、給食では毎回牛乳ビン2本、学校から帰ってからは、毎日1リットル近く飲んでいた。

 

家族と牛の愛に育まれ、心身ともにすくすく成長したのである。

 

まさにホルスタイン様様である。

 

はっ!!

 

まさかっ!私の巨乳好きも「刷り込み」なのかっ!?!

 

まったく生物の本能には心底、驚嘆させられる。

2008年7月17日(木)
「 絶対に出ないんで、諦めて下さい。  

 古代の中国では虹は龍だと思われていたらしい。

 

 天候が不安定になるこの頃は、にわか雨の後の龍をちらほらと目撃する。

 

 「草臥れる」という言葉をご存知であろうか?

 

 「くたびれる」とは、文字の通り草の上に倒れ臥せている様子が、あたかも疲れ果てている状態を想像できる。

 

 目標や目的というものは、普段の生活においても大なり小なり必要であろう。

 

 しかし、目標の為に費やした時間や、その心持が大きいものであればあるほど、時として大きな失望感に襲われる。

 

 また立ち直り、再度同じ目標に取り組むか、もう諦めてしまうか。人により、目標により様々であろうが、まず感じるのが「草臥れた」感ではないだろうか?

 

 何もかもが嫌になり、疲れ果てて、頭の中が真っ白に成ってしまった時、草臥れてしまってはどうであろう。

 

 いっそ打ち伏せて草の上に寝転がってみる。

 

 風になびいて揺れる草木、遠くから微かに聞こえる水の音と鳥の声、時間と共に色合いを変える雄大な山々。

 

都会にはそんなものはないであろうが、空と雲と太陽と月くらいは世界中どこへ行ってもあるだろう。

 

朝焼けの白む空に残された淡い白月、突き抜けるような丸く深い空と、雲の隙間からこぼれる光の梯子、茜空に世界を染める空と雲、雨上がりに現れる七色の龍。

 

無償で寛大な風景を目の当たりにすると、よもや私という小さな人間のエゴにも近い失望感など、どうでも良くなってくる。

 

何故に自然は、こんなにも美しく天井知らずな愛を人に与えてくれるのであろう?

 

また起き上がれば、腹も減るし、喉も渇く、仕事も気になるし、人とも話したくなる。ビールも・・・うん!飲みたい!

 

とは言え、完璧にノックダウンされている私のお昼寝は、どんな重要人物からの電話も一切出ない。

 

また、希望に燃えて起きるのを少々お待ち下さい。















2008年7月7日(月)
「 倦怠期  





 昨日、仕事の合間を縫って、我が家の裏庭の竹林に足を踏み入れた。

 

 今日は七夕である。

 

 お供にリヴを連れて、鉈を片手に鼻歌交じりで、手頃の竹を物色していた。

 

 「笹の葉さぁらさら、軒端にゆ~れ~る~・・・」

 

 え!?

 

 竹じゃない!笹だ!

 

 これは大きな勘違いをしていたと、大至急家に戻り調べてみると、笹というのは小振りの竹のことであるらしい。

 

 祖母に聞いてみても「歌は笹だけど、使うのは竹。」ということで、再びリヴと出発。今度は祖父も一緒に。

 

 本来、我が家の辺りは旧暦なので8月に実施するが、幸薄いうつつに少しでも願いの叶うチャンスがあれば、何度頼んでみてもいいであろう。

 

 しかし、年に一回しか会えないカップルに、願い事を頼むなど言語道断!!

 

とも思っていたが、地球生誕から46億年。人間が毎日80年好きな人と過ごしても、高々3万日なわけだ。

 

 46億回も会っていれば、余裕も出よう。

 

 しかも、年に一度という距離感が円満の秘訣であろうか?

 

 壮大なスケールからは一転して、瑣末なお願い事を記す。

 

 残念ながら天気は良くないらしい。

 

 それでも、たまに会うのだから、織姫と彦星も人目をはばかりたいだろう。

2008年7月4日(金)
「 コマーシャル ~ プリンセス オブ ウェールズ編 ~  

「私、結婚するの。」

 

 出し抜けに聞かされた言葉に、哲也は言葉を失う。

 

 2年前に別れた彼女のことを忘れたことは、一度もなかった。

 

 頻繁にではないが、たまに連絡も取っていた。

 

 心の何処かでは、「元鞘に戻るのではないか。」という淡い期待もあった。

 

 自分の短所を鋭く指摘され、プライドの高い哲也は別れを切り出した。

 

 5年も付き合っていたのに、雪絵もあっさり承諾した。

 

 哲也にとっては、想定外であった。それでも引けなかった。

 

 走馬灯の様に、別れ際の記憶が蘇えり、また我に返る。

 

 「そっか・・、じゃあお祝いに飯でも行こうか?」

 

 断られると思ったが、雪絵はまたしても、あっさり承諾した。

 

 久し振りに会うと、雪絵はパーマをかけ少し大人びた雰囲気になっていた。

 

 他愛も無い話ばかりをして、哲也は結婚の話題には深く踏み込まなかった。

 

 店を出ると雪絵が


 「こんないい女を振ったなんて、あなたもバカね。」と皮肉めいて言った。

 

 「そうだな。」とふてぶてしく笑ったが、本当にそう思った。

 

 雪絵の顔を見つめるも、出る言葉もなく、別れを告げる。「またな。」

 

近くに停めてあった車へ向かうが、思い返し、車から花束を出して雪絵を追いかける。

 

「渡すの止めようと思ったけど、これ。」少し荒い息遣いで、花束を渡す。

 

「バカね。」と言い、雪絵はあっさり笑って受け取った。

 

 部屋に戻ると、街灯と窓につく雨粒の影が、部屋を水槽の中のように染めていた。

 

 彼女に渡した花と同じ花がコップに入り、こちらを眺めていた。

 

 哲也も腰掛けて、まとまらない思考を止めて花と見詰め合った。

 

 ありふれた毎日を特別な一日に

 

 思い出が優しく花開くプリンセス オブ ウェールズ



       

 

                          Product by 堀木園芸


2008年6月28日(土)
「 Morning Glory  

 バラ屋の朝は早い。

 

しかし、私は早起きが大の苦手である。

 

 寝起きが悪く、3040分前から目覚ましアラームをかけておかないと、定時での起床は皆無だ。

 

 故に毎朝が奇跡の連続である。

 

 朝から脳は無回転のまま、兎に角温室に向かう。

 

 最近、我が家の温室に防虫ネットを取り付けた。

 

 この時期は昼夜問わず、温室の窓という窓を開けているので、例年であれば、コガネムシ、タバコ蛾、スリップスなどの害虫被害が続出するが、今年は最小限に抑えられている。

 

 以前からも、近隣農家では防虫ネットを、温室に施す取り組みもあったが、高々ネットであっても温室の窓を塞ぐということで、室温の上昇や、風の出入りまでも防ぐ事になってしまう。

 

 だから、我が家での導入は少しの期間、見合わせていた。

 

 それでも、農業試験場の試験データでは、風がないための体感温度は上がるが、網目の細かいネットを利用しても、温度上昇はわずか2度程度ということがわかった。

 

更になるべく、農薬散布、害虫被害の軽減に努めようと、設置の至りとなった。

 

民家の網戸程度の網目のネットを、側窓に取り付けた感じとなる。

 

神秘的に霞のかかる山々と、朝露を持った木々の煌めく姿。朝日を優しく照り返す田んぼ、まるで波のように風の形に戦ぐ稲をボーっと眺める。

 

寝起き直後の不機嫌な私の唯一の楽しみだったのに、防虫ネットによって視界を妨げられてしまった。

 

そうであっても、バラの害虫被害を抑える事と、またもや奇跡的にアレンジメントされた私の寝癖を、通りがかりの人に見られなくなっただけでも、良しとしよう。

 

それでなくても、この時期は髪のうねりに拍車がかかるのだから。

 











2008年6月21日(土)
「 金雄&志津 80代 2入り×1ケース  








 梅雨だというのに天気のいい日が続く。

 

 アルプスから覗く雲は、綿菓子のようにふんわりと天空に膨らむ入道雲。

 

 木々は注ぐ光を余す事無く吸い込み、濃い緑色に輝く。

 

 夏の到来を予感させる。

 

 我が家の選花・箱詰めをする作業場は、昭和の趣を色濃く残す木造建築で土壁。

 

 お世辞にも立派とは呼べない作りだ。

 

 選花も一昔前までは、機械選花を行っていた。

 

 現在もオーソドックスな品種や花弁が強いものに関しては、機械選花を行っているが、我が家の22品種のうち、18品種が手選花に戻した。

 

 もちろん作業効率は機械の方が圧倒的に早いが、繊細な花弁のバラや切り前が緩いもの(花が咲いた状態で採花したバラ)は、手選花の方が、花が受ける損傷が少なく確実である。

 

 夏を迎え、単価とは裏腹に出荷本数は増える。

 

 手選花での作業速度の遅延で、バラに負荷を与えないために、この度作業場にエアコンを導入してみた。

 

 温室に続き、作業場もエアコンを設置した。

 

 家族が住む母屋には、当たり前のようにエアコンなどない。

 

 バラ様様である。

 

 エアコン導入に伴い、出荷本数を記入する黒板、選花台もリニューアルしてみた。

 

 気持ちを新たに、より品質の高い選花をしていきたいと思う。

 

 祖父は塗り壁に取り付けられた、エアコンを然も不思議そうに眺め、リモコンをいじっている。

 

 祖母は涼しさを確かめに、用もないのに作業場に顔を出す。

彼らが私の年頃には扇風機もなかっただろうに。

 

でも、あんまりウロウロしてると、箱に詰めちまうぞ!!


2008年6月14日(土)
「 信濃の国  

長野県民の万人が歌うことの出来る歌。それこそが県歌「信濃の国」である。

 

 本州の中央部にあり、南北に長い長野県はその谷、平ごとに独自の文化が確立されており、方言も異なる。

 

 長野県は合衆国のように場所場所で全くと言っていい程統一性がない。

 

 県内では北信、中信、南信と大きく3つに別れ、多少の地域間のいざこざもあるが、それでも県外に一歩足を踏み出せば、誇り高く「信濃の国」を大合唱する。

 

 私は「信濃の国」が大好きである。

 

 その昔、県議会において南北の主張が大きく割れ、長野県分断の危機に至ったという。

 

 その際、信州分断を憂いた民衆が県庁を取り囲み、「信濃の国」を大合唱したという。

 

 民衆の歌声は県議会を揺るがし、今の長野県が保たれている。

 

 私はこの逸話を耳にした時、目頭が熱くなった。というか、何度聞いても泣きそうである。

 

 それでは歌詞を読んで頂きたい。

信濃の国は十州に 境連ぬる国にして
そびゆる山はいや高く 流るる川はいや遠し
松本 伊那 佐久 善光寺 四つの平は肥沃の地
海こそなけれもの沢に 万足らわぬ事ぞなき 

四方にそびゆる山々は 御嶽 乗鞍 駒ヶ岳
浅間はことに活火山 いずれも国の鎮めなり
流れ淀まず行く水は 北に犀川 千曲川
南に木曽川 天竜川 これまた国の固めなり

 6番まである歌の2番までを抜粋したが、各名所、名山、清流、偉人を余すことなく伝えている。

 

 山を愛し、川を愛し、土地を愛し、先人を尊び、誇り高き「信濃の国」を歌う民こそが信州人であり家族である。仲間である。

 

 我が家の「Music」のページにも「信濃の国」をアップしたので、あなたも覚えよう!

 

 Let’s Singing !! 

 

 そうすれば今日から君も信州人(仲間)だ!










2008年6月11日(水)
「 コマーシャル ~アブラハムダービー編~   

 自分の家内の事を「ママ」と呼ぶようになってから、どのくらい経つのであろうか?

 

 引越しを終え、家路に着く車の中で一人、智和はふと思った。

 

 息子が大学に進学し、一人暮らしをすることになった。

 

 親子三人でずっと暮らしてきたが、急に夫婦二人に戻ってしまった。

 

 彼女も智和の事を「パパ」と呼ぶ。

 

 それが普通だった。いつからだろう?

 

 息子が生まれた直後は、まだお互いの名前で呼び合っていたのに。

 

 さっき家内から携帯電話にメールが届いた。

 

 「引っ越しご苦労様。ご飯作って待ってるね。今日からまた二人だね。」

 

 何か急に照れくさくなった。

 

 でも、ちょっと懐かしい、新鮮な気分になる。

 

 とっさに思いつき、ハンドルをきる。

 

 

 「ただいまぁ」玄関を開け、彼女が来るのを待つ。

 

 「おかえりなさい。」と言うものの、なかなか出迎えに来ない。

 

 「おーい! マ・・・。 理恵ぇ!」

 

 ちょっとビックリした顔で玄関に家内が来る。

 

 「はい、お土産。」とワインと小さい花束を渡す。

 

 「ありがと、パパ」と花の香りを確かめる家内。

 

 名前で呼んでもらえなかったのは、少し残念だったが、彼女の素直に喜ぶ姿に、久し振りにドキッとした。

 

 ありふれた毎日を特別な一日に

 

 忘れかけていた愛おしさを思い起こすアブラハムダービー

 



                                 Product by 堀木園芸

2008年6月7日(土)
「 花音(かのん)   


 我が家のオリジナルバラたちの花名は、一つの楽曲から取ってあることが多い。

 

 ご存知ない方もいるであろう。

 

トップページ左側に「 Music 」という所があるので、そのページで、彼女達の名前の元になった音楽を聴いて頂きたい。

 

「微妙なネーミングのバラだなぁ・・」と怪訝に思われていた方も、きっと合点がいくであろう。

 

和訳するとラブバラードだけに、日本男児の私が口にするのは、かなり恥ずかしい。

 

赤面症の私には気持ちをバラに託すのが精一杯である。

2008年6月6日(金)
「 Patience   

 朝の花切りが終わると、皆で朝食を取る。

 

 私は、その日の気分に合ったテレビ番組を見る。

 

 世の中には深刻なニュースが多い。朝から戦々恐々とさせられてしまう。

 

 

 先日、東京以外の唯一の出荷先である名古屋・花兼市場と中卸の丸正花きの方が見学に来られた。

 

 また長野県内では、知らない人はいないであろう大手書店の平安堂の方も我が家のバラを見に来られた。

 

 両者とも天狗になってしまうぐらい褒めて頂き、家族一同気分が良く仕事が出来る。

 

 我が家のオリジナルバラ「ワンダーウォール」と「バイア モーメント」がいよいよ本格出荷を今夏に迎える。

 

 永かった。

 

 「作るよ」「出るよ」と言いながら、もう何年経過しただろうか?

 

 当初からお目に掛けている方々には、もう飽きられてしまってはいないだろうかと、心配にすらなる。

 

 それでも彼女達もたった一本の株から選抜され、挿し木をされ、芽接ぎをされ、着実に成長し、株を増やし、ようやく今500株から1000株近く定植されている。

 

 私などは、ただ待っていただけだが、彼女達は毎日毎日、少しずつ出荷に至るまでの日々を送ってきた。

 

 私も「早く、早く!」と捲くし立てながらも、彼女達の成長を楽しみにしてきた。

 

 厳しく辛い事があって、一人では耐えられなくても、誰かに支えられていられれば、また持ち直し、立ち上がれる。

 

 農家と生産物はその関係に似ているような気がする。

 

 我が家のバラたちにも、一日でも早く巣立って、誰かの支えになれるように、活躍してもらいたい。

 

 その為にもっと褒めてください。

 

 そうすれば、バラも私の鼻もよく伸びるというものだ。

 













2008年6月3日(火)
「 花濡れぬ 森の葉艶めき また霖雨   

 とうとう信州にも梅雨の時期が訪れた。

 

 温室の中ではラジオの音も聞こえなくなるほど、雨音に包まれる。

 

 まるで水中にいるようだ。

 

 パラパラという音色と、遠くで哮る蛙の歌声だけが世界をグレー掛かった水色に染める。

 

 バラにとっては辛い季節だ。

 

 この時期はカビ系の病気の発生が多くなる。

 

 路地に咲くバラは、紫陽花との入れ替わりを待つように、雨に濡れ、有終の美を見せ付ける。

 

 しかし、それは遠目から見たからで、とても市場では通用しない。

 

 例年この時期は、出荷量が著しく減退する。

 

 悪天候と低温にも起因するが、病気等により規格外が出ることが、間々ある。

 

 補助暖房として設置した、我が家のヒートポンプの真価は実のところ、この時期の除湿にある。

 

 バラは湿度に弱く、温度管理よりも湿度管理が品質の優劣を決める。

 

 県下で初のヒートポンプ導入にあたり、長野県農業普及所や農業試験所、中部電力の協力の下、実地試験が行われる至りとなった。

 

 病害の発生の程度や電力使用量、重油使用量、品質向上の有無を調査する。

 

 いい調査結果が出れば、県内にもヒートポンプを導入する農家が増えるだろう。我が家も一温室だけでなく他の温室にも設置を見込んでいる。

 

 先駆けて何かをするのには、勇気がいる。目前の暗闇の中を全力疾走するようなものだ。

 

 その先に待つのは、栄光か壁か。

 

 踏み出した者だけにしか、味わえない勝利もあろう。

 

 万人が成功するとは限らないが、

 

梅雨を越えれば、いつも光り輝く夏が待っている。