久しぶりに定時で帰宅できたバスの中、真吾は車窓から家路までの風景を眺めていた。
信号でバスが停まる。無意識に交差点に立つ女性に目が行く。夕暮れで良くは見えないが、清純そうな若い女性は小柄で白のワンピースがよく似合い、美人そうな感じがした。
遠くから冴えない格好をした青年が「取るもの取らずに」といった風体で走ってくる。
「あらら。遅刻だな」
と真吾が思うや否や稲光のようなビンタが青年の頬にいななき落ちた。
動き出すバスの中、真吾は青年への深い同情と共に、女性を見送りながら妻のことを思い浮かべる。「恵美ちゃんそっくりだ。」
真吾には結婚して3年経つ女性がいる。見た目は先ほどの女性とは正反対と言えよう。骨太で大柄、小学生の時に空手をやっていた為だろうか、何かあってもなくても直ぐに手が出る。
そんな彼女とも夕食を一緒に食べるのは久しぶりだ。
いつも降りるバス停の一つ前で下車し、真吾は少しきょろきょろしながら、一直線に自宅とは関係の無い方向に歩みを進める。
「ただいまぁ」
これから起こるサプライズを予想し声が上ずる。
こそこそダイニングに入ると、それを悟った恵美が近寄ってくる。
「遅いじゃない!7時には帰ってくるって言ったのに。」
一瞬で空気を読んだのは真吾の体だ。脇の下の汗腺が湿るのを感じる。ちらりと目をやるとまだ7時15分。
さっきとは打って変って小さな声になった真吾。「いや、それは・・」と口に出そうとすると、
「何隠してんのよ!?」
恵美の鋭い視線が真吾の体を透過する。
起死回生とばかりに花束を恵美に突きつける。
「はいこれっ!」
閃光瞬き真吾の体がよろめく、
「あんた浮気してるんでしょ!? そうでなきゃ何の記念日でもないのに花なんか買ってくるわけないじゃない!!」
「ち、ちがぅ」
言い終わらないうちに、もう2発ほど頂く。
「最近、仕事で遅くなってばっかりだったから、寂しい思いをさせたお詫びに買ってきたんだよっ!」
珍しく大きな声を出すと恵美は少し怯む。
「いつもごめんね。」
「別に謝ってもらいたくなんか無いわよ。」
振り返りキッチンに戻る恵美。しょんぼりして背広を着替えに行く真吾。
「はぁ、慣れないことするもんじゃないなぁ・・」と思いながら再びダイニングに戻ると、とても嬉しそうに花をじっと眺める恵美がいた。
張り手を受けた頬は熱いが、自分も嬉しい気分になった。
ありふれた毎日を特別な一日に
かわいらしい奥さんにはロマンティックキュリーサを
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