私にはライバルと呼べる人間が多い。
といっても私が一方的に競争相手に設定し、敵視しているだけで、彼らは歯牙にもかけないだろう。
人によっては私の存在さえも知り得ない。
ライバル達のジャンルはバラ屋、農家、経営者、一人の男として、と様々であるが、先日一人のライバルのライブを聞きに行ってきた。
「タテタカコ」という女性をご存知だろうか?
信州・飯田出身、在住のシンガーソングライターで、数々の賞を受賞した映画「誰も知らない」の主題歌を歌い。県内においては、信濃毎日新聞CM挿入歌を歌い、知る人ぞ知る逸材である。
同じ飯田下伊那出身で年も近いが、広く名を馳せている彼女に、沸々とライバル心を燃やしている。
ライブは飯田市内のパブで執り行われ、小さいながらも趣のある場所であった。
小柄でボーイッシュな髪と恥かしそうに話すその姿からは、想像できないような力強く繊細な歌詞を、美声に乗せて歌う。
プリンセス オブ ウェールズの様な白く華奢な体から、振り絞るようにして放つその声は、四季折々の風のようだ。
私の携帯電話にもダウンロードされている「遠い日」が始まると感動して鼻の奥がツーンとした。
敵ながら天晴れである。
ライブが終わると、パブの出入り口でお客さんを丁寧に見送っていた。
ライバルがいい人である場合、余計に闘志が湧くのは、私の劣等感がそうさせるのか、私が悪人だからであろうか。
私も負けじと、抜かりなく用意してきた、バラの花束を手に持ち忍び寄る。
彼女が歌で勝負するなら、私の武器はバラ一つである。
花束は我が家の看板娘のジプシーキュリオーサ。ノーマルからグリーンにかけてのグラデーションスペシャルだ!
「あんたにゃ、負けねぇぜ! 我こそは堀木拓也だ!!」
と名乗りを上げられるわけもなく、
「ぁ・・応援してます・・。これ僕が育てたバラです。」
と渡して逃げるように店を出た。
あぁ、私の根性無し!
それでも、私の存在を知らしめる事が出来、タテさんも「スゴーイ!綺麗。」と喜んでくれたから、今回は引き分けということにしよう。
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