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2008年5月30日(金)
「 道化  




















 先日、東京に赴いた際に、いつもご贔屓にして頂いている、お花屋さんに顔を出した。

 

 吉祥寺のジェンテさんである。

 

 主宰の並木さんは私がふらっとアポなしで訪ねても、いつも笑顔で迎えてくれる。

 

 店内はどこに目を向けても、ワクワクするような花や葉、小物が並び、その花の一つ一つを楽しそうに説明してくれる並木さんは、純粋にお花が好きな少女のようだ。

 

 スタッフの方も私のような大きな男が、店内を徘徊しても嫌な顔一つせず、快く見守っ
てくれる。

 

 元来、花屋という空間は男子には踏み入れがたい空気感がある。

 

 しかしジェンテにはそれがない。

 

 何やら腰を据えて紅茶でも飲みたくなる雰囲気だ。

 

 まあ、それでは大層迷惑なのでやらないが、ふと目を留めるとオリエンタルキュリオーサ(以下オリキュリ)があった。

 

 我が家の娘ではないようだ。

 

 我が家がオリキュリを栽培し始めた時には、オリキュリを生産している産地は全くと言っていい程なかった。

 

 最近は少しではあるが、増えたらしい。

 

 オリキュリは他のキュリオーサシリーズの中でも癖のある品種で、バラ作り一筋40年の父でも苦労している。

 

 どういう経緯でオリキュリを創めたか存知あげないが、オリキュリやアブラハムダービーを栽培している生産者を見ると少し同情したくなる。

 

 私は花業界をサーカスに例えるなら、我が家はピエロになりたいと思う。

 

 巨大な農協、経済連、大規模経営の産地はサーカスの目玉の猛獣ショー。

 

 唯一で秀逸のバラを作る個選農家は人々を虜にする空中ブランコ。

 

 我が家は、おどけて馬鹿にされながらも、人に笑顔を与え、お客様を引き込むピエロになりたい。

 

 どこかのピエロが育てたオリキュリが、美しく私を見ていた。

 

 私を応援してくれているようであった。

 

 よし!柔軟をしよう!(そうじゃないな・・・)

2008年5月27日(火)
「 Dump  


 先日、世田谷市場の中卸し組合が開催する「ストリートライブ」と呼ばれるイベントに参加した。

 

 有名フラワーデザイナーがライブ形式で花を活け、花器の販売や音楽演奏などが催された。

 

 私は生産者ブースと呼ばれる、自社製品を生産者が様々な手法でPRする場で、我が家のバラを展示した。

 

 昼食を済ませ、午後6時開場の準備をした。

 

 エルフバケットに品種ごと名札を付け展示する生産者、産地の風景をパネルにして飾る産地、スーツ姿でバラ風呂や花のプレゼントで大々的にインパクトをつける産地など様々だ。

 

 我が家は持ち込みの花器に何品種か花瓶活けや花束にして展示した。

 

 展示箇所も通路より若干奥まった所にあり、これと言って大袈裟なPOPもなく、花色もマットな色合いが多いためか、こぢんまりと展開していた。

 

 パラパラと来る入場者の質問に答えていると、やっちゃば風の中年男性が近寄ってきて、我が家のバラを一通り見渡した後、

 「この中のどのバラが売れてるの?」

と、藪から棒な質問から始まり、

 「おじさんの店ではこういうはっきりしない色のボテッとしたバラより、高芯剣弁の明るい色のばらじゃないと売れないね。」

 「流行に惑わされないで、花持ちのいい土耕のバラを作った方がいい。」

と、長々とご高説賜った後、

 「おじさんと話したからには、兄ちゃんも頑張らないといけないよ。いいバラ作って!」

と言い残し、名刺を置かれて去っていった。

 

 「花経営コンサルタント」と書かれた名刺を見ると、何やら多くの感情が私の中で入り混じり、取り敢えず苦笑してみた。

 

 聞く耳を持たない人間にはなりたくない。世の中にある様々な事象には、複数方向からの見解が存在し、辿り着く答えは一つではない。

 

 
 多くの人の意見を体に通し、自らが進む道をより鮮明にさせていきたい。

 

 頂いた名刺は大事にしまっておこう。

 

 
 コーヒー好きの私には苦笑いの苦味も癖になりそうだ。








2008年5月21日(水)
「 一寸の虫にも五分の魂 十分の毒  




 私は昔からテレビっ子だったせいであろうか?かなりの妄想家である。

 

 出来もしない事に思いを膨らませ、思慮してみる。

 

 バラにつく害虫という者は、つくづく馬鹿な奴らだ。

 

 根絶やしにするまで、侵食、増殖を止めようとしない。

 

 加減を己で見極めてバラに害を与えればいいものの、にわかに増え、全てを食い尽くす。

 

 故に我々生産者は、農薬などの様々な手段を用いて、彼らを死に追いやる。

 

 しかしながら、敵も然る者で、太古から生き永らえている生物だけあって全滅はしない。

 

 人も知恵を絞り、新たな駆除方法を編み出す。それでも彼らは抵抗力をつけ、また増えていく。

 

 これではイタチごっこだ。

 

「ここからそこまでは食べていいですよ。でもこっちからは増えないでね。」

OK!その代わり確りバラを育てて、薬等も我等の領地には飛散しないように気をつけてね。」

 

 などと、虫と協定を結べれば、良いバラも出来、農薬もいらない。彼らも生命を次代に繋げる事が出来る。

 

 人はどうであろう?

 

 「地球」という一本の樹に、根から葉先に至るまで増殖し、今まさに枯れ倒す程駆逐してはいないだろうか?

 

 もしかしたら、数々起こる天災や蔓延する病気は、樹を守る「神」という名の生産者が人を樹から排除する為の手段なのかもしれない。

 

 無神論者の私が「神」を口にするのは甚だ馬鹿げているが、自然の驚異と偉大さを目の当たりに、それを「神の仕業」と頭をよぎる時がある。

 

 仮に虫と会話が出来たら、彼らの第一声はなんであろう?

 

「ここのバラはいまいちだなぁ。」

 

 うん♪皆殺し(^o^)丿

2008年5月12日(月)
「 怒りの矛先  

 先日、mixiで知り合いのお花屋さんの日記を読んでいると、こんな様な事が書かれていた。

 

 「母の日前には市場に溢れている花の品質が低下する。お客様の誠意を無駄にしてしまわぬ様、細心の注意を払わなければならない。」

 

 物日と呼ばれる大型需要期は年に数回しかない。

 

 他業種であれば、ゴールデンウィークやクリスマス、バレンタインデーなどに商戦を合わすのは当然のことであろう。

 

 しかし、「保存」ということが出来ない生花であっても、物日に大量出荷をしてしまうためか、純粋に気候的な影響で品質が落ちるのか、お花屋さんの目は誤魔化せない。

 

 前者を消費側から見れば「悪意」に思われるだろうか?

 

 最近頻発する「偽装」にあたってしまうのであろうか?

 

 生産者にも言いたい言い訳はあるだろう。

 

 激増するコスト、病害虫への恐怖、異常気象、年々低下する単価、買い手市場の価格。

 

 しかし、その言い訳を簡単にねじ伏せることが出来ることがある。

 

 大切な人へ贈った花がもたらした、大きな失望と怒りであろう。

 

 「不」の念はいとも簡単に感染し、人々を悲しみの螺旋に突き落とす。

 

 消費者が味わった、失望と怒りが、私たち生産者を蝕み、苦しめるのは明らかであろう。

 

 ストレスの発散方法に「昇華」と呼ばれるものがある。

 

 分かりやすく言うと、体を動かしたり、声を出したりすることで、マイナスの力を原動力にして有効活用しようとすることであろう。

 

 クレームは出来れば受けたくはない。しかし、それを糧にして花の高みへ向かおう。

 

 傷ついたプライドと自信はスポーツしたり、カラオケしたりして昇華しよう。

 

 え?労力にしろって?

 

 もちろんそれもそうである。










2008年5月10日(土)
「 Sugar Boy  






















 私にはライバルと呼べる人間が多い。

 

 といっても私が一方的に競争相手に設定し、敵視しているだけで、彼らは歯牙にもかけないだろう。

 

 人によっては私の存在さえも知り得ない。

 

 ライバル達のジャンルはバラ屋、農家、経営者、一人の男として、と様々であるが、先日一人のライバルのライブを聞きに行ってきた。

 

 「タテタカコ」という女性をご存知だろうか?

 

 信州・飯田出身、在住のシンガーソングライターで、数々の賞を受賞した映画「誰も知らない」の主題歌を歌い。県内においては、信濃毎日新聞CM挿入歌を歌い、知る人ぞ知る逸材である。

 

 同じ飯田下伊那出身で年も近いが、広く名を馳せている彼女に、沸々とライバル心を燃やしている。

 

 ライブは飯田市内のパブで執り行われ、小さいながらも趣のある場所であった。

 

 小柄でボーイッシュな髪と恥かしそうに話すその姿からは、想像できないような力強く繊細な歌詞を、美声に乗せて歌う。

 

 プリンセス オブ ウェールズの様な白く華奢な体から、振り絞るようにして放つその声は、四季折々の風のようだ。

 

 私の携帯電話にもダウンロードされている「遠い日」が始まると感動して鼻の奥がツーンとした。

 

 敵ながら天晴れである。

 

 ライブが終わると、パブの出入り口でお客さんを丁寧に見送っていた。

 

 ライバルがいい人である場合、余計に闘志が湧くのは、私の劣等感がそうさせるのか、私が悪人だからであろうか。

 

 私も負けじと、抜かりなく用意してきた、バラの花束を手に持ち忍び寄る。

 

 彼女が歌で勝負するなら、私の武器はバラ一つである。

 

 花束は我が家の看板娘のジプシーキュリオーサ。ノーマルからグリーンにかけてのグラデーションスペシャルだ!

 

 「あんたにゃ、負けねぇぜ! 我こそは堀木拓也だ!!」

 

 と名乗りを上げられるわけもなく、

「ぁ・・応援してます・・。これ僕が育てたバラです。」

 と渡して逃げるように店を出た。

 

 あぁ、私の根性無し!

 

 それでも、私の存在を知らしめる事が出来、タテさんも「スゴーイ!綺麗。」と喜んでくれたから、今回は引き分けということにしよう。

2008年5月6日(火)
「 公開日誌? 後悔日誌? 航海日誌!  

 いよいよ今週末には母の日が迫ってきている。

 

 お母さんへの感謝の意を伝える準備はお済でしょうか?

 

 カーネーション農家ほどではないが、バラ屋にも多少母の日商戦の恩恵を賜る。

 

 私事ではあるが、母の日を終えると堀木園芸のウェブログを始めて1年が経つ。

 

 今までのブログを読み返してみると、駄文、乱文ではあるが、日記もまともに続けられた事の無い私が、不定期的ではあれど一年も綴る事が出来たのは奇跡である。

 

 たまに「読んでるよ!」などと言われると、気恥ずかしいが嬉しい限りである。

 

 それであっても私のハートは、ベンデラやフラジールの花弁のようにデリケートなので、今後もコメントを書き込める様にする気は甚だ無い。

 

 私の稚拙な文章にお付き合い頂いている方々に、多少なりともお返しがしたく、父を口説き落としてみた。

 

 以前「世代交代」編で記した。ジプシーキュリオーサの事であるが、母の日を目前にして絶好の緑色を発している。

 

 木の生長を最優先させる為、スプレー出荷は出来ないが、私の再三の懇願によりピンコロ(一輪)での出荷を5月9日(金)に出来ることになった。

 

 サイズは3040cmではあるが、お申し付け頂ければ、ご注文承ります。

 

 今後も多少彷徨いながらも、堀木園芸のブログを読んで頂いている方々に、バラ屋の日常と我が家の娘達の動向をお伝えできればと思う。

 

 ブログだけでなく、品種紹介、集荷状況、日常写真も必要に応じて変更しているので、ご覧頂けたら幸いである。

 

 苦情等は一切受け付けない。

 

 そのくらいフラジールと私は傷つきやすいのだ。












2008年4月30日(水)
「 Back to the Future  













 今月の25日に友人に子供が生まれた。

 

 同日の夜に私の携帯電話に

「女の子が生まれたよ。そしておれはお父さん!」

というメールが届いた。

 

 「おめでとう」とよくある質問を彼にぶつけてみた。

 

「泣いた?泣いた?」

 

 彼は

「自分の子供が生まれたのは当然嬉しいんだけど、みんなが一緒に喜んでくれるのが、本当に嬉しい。」

と答えた。

 

 私はこの日を境に、彼と人間としての大きな差が開いてしまったことに気が付いた。

 

 彼の娘がこの世に生を受けた瞬間。彼は父親となり男としての新たなステージへとステップアップしたのだ。

 

 今の私には、彼が述べたような殊勝な一言など、とても思いつかないであろう。

 

 先日、折り曲げた「ジプシーキュリオーサ」に力強く新芽が吹き出してきた。

 

 その芽は、赤く燃えるように命の焔を伸ばしている。

 

 朱に染まる筋は、まるで轍のようである。

 

 時は降り積もるように過去になり、良くも悪くも無情な程に未来が押し寄せて来る。

 

 生命は決して絶えることなく、次へ、また次へと繰り返される。

 

 友人の娘とバラと春に回り続ける車輪のような輪廻を教えられた。

 

 彼女が大きく成長し、美しい花の様な女性になるのが楽しみだ。

 

 その時には私も東方随一のバラの生産者になっていよう。

 

 そして合コンを組んでもらおう。

2008年4月23日(水)
「 惜別を 焦がし刻むる 花明かり  

 実の所、私はバラ以上に好きな花がある。

 

 それは「木」だ。業界用語で言うところの「枝物」と呼ばれる花達である。

 

 通年出回るバラと違い、路地物の枝物はその存在に四季の移り変わりを感じることが出来る。

 

 桜、花水木、雪柳などの花を付けるものから、満天星(どうだんつつじ)や馬酔木(あせび)などの葉が美しいものも好きである。

 

 人の家の庭に私の知らない木が花を付けていると、思わず名前を聞いてしまうこともある。

                                                                                          

 もちろん、路地バラや鉢物のバラは一期咲きであれば5、6月頃に、返り咲きであればまた秋口に花を咲かせ、季節の移り変わりを色鮮やかに告げてくれる。

 

 しかし、切バラ農家は温室の中に、常にバラを開花させるベストコンディションを提供し、安定して消費者にバラを供給するのが務めである。

 

 そんな重大なバラ屋の仕事と信用を失墜させるように、最近めっきりお休み気味の「イリオス!」「ザ・プリンス」「イントゥリーグ」「パパメイアン」「ロマンティックキュリオーサ」

 

彼女達もようやく少しずつ出荷できうる体制に戻ってきた。

 

ゴールデンウィーク迫り、不況風が薫る中の復活には若干の畏怖を感じるが、致し方なかろう。

 

春はあまりバラが売れない。

 

それもそうであろう。

 

一歩外に出て辺りを見回せば、遠くの木々も足元の草も花を咲かせている。

 

モノクロームだった冬の記憶を一蹴するように、そこ此処に彩が溢れている。

 

仕事中に友人から電話がかかる。                           

 

何かと思い電話に出ると、

「お前の親父とお袋さんが、大鹿(隣村)の公園で花見デートしてるの見たぞ!」

 

という密告電話だった。

 

何やら気恥ずかしい。







2008年4月14日(月)
「 世代交代  











 南信にも慌ただしく桜が咲き乱れ、山には色とりどりに木々が花を咲かせる。

 

 桜や木蓮の肩越しに残雪を冠する山々が見え、春の訪れと冬の残り香を感じる。

 

 我が家のバラたちは市況と共に控え気味である。

 

 唯一、勢いを保っているのは、12月に定植した「ジプシーキュリオーサ」。

 

 まるで崩壊したベルリンの壁か万里の長城を彷彿とさせる程、茂り、壁と化している。

 

 この状態を整理し、スプレー率の高いものだけ残していけば、「母の日」周辺には1216輪もの花をつけた立派なスプレージプシーキュリオーサが切れるだろう。

 

 上手く好天が続けば、ジプシーキュリオーサ(アッシュ)くらいにはなるだろう。

 

 しかし、出荷は致しません!

 

 私の唆しにも父は頑として採花はしない。

 

 我が家の新苗の養成スタイルは、定植してからの半年は一切花を切ることはしない。

 

 付ける花はことごとく摘み取り、枝は有無を言わせず折り曲げ、樹の成長を優先させる。

 

 タイミングよく物日に出荷できれば、苗代など一気に回収できそうなものだが、彼にとっては目先の小銭など小事の如くである。

 

 十数輪の蕾をつけた立派なシュート枝を、絨毯でも織るように丹念に曲げていく。

 

敷き詰めた様に並んだ葉が、次こそは可憐な花を咲かせる次世代の芽を育んでくれるはずである。

 

 私も然程は強く採花を促さない。

 

 古い考え方や、頑固一徹というものになかなかどうして風情を感じる。

 

 私も古い人間なのだろう。

 

 先日誕生日を迎え、母が出産時の話をしてくれた。

 

 初産の母は陣痛が夜始まり、一晩痛みに耐え、私が生を授かったのは翌朝であったらしい。

 

 親の有り難味を再確認しながら、母と私の母子手帳を眺めてみる。

 

「出産時刻 午後4:20」

 

 30年弱の時が過ぎれば、人の記憶など曖昧なものである。

2008年4月6日(日)
「 どうなってるの?  

 年度末の需要期をすぎ4月に入れば、じり安感がにわかに漂う。

 
一体我が家の出荷状況はどういう状態にあるか、お伝えしておきたい。

 
安定して出荷できているのは、冬場も一貫して採花していたアンネマリー!、グランス、ローテローゼ、ティネケ、ロジータベンデラ、ベンデラ、ブライダルピンク。

 多少谷間にあるのが、オリエンタルキュリオーサ。

 
今正にブームでその内激減見込みは、プリンセスオブウェールズ、フラジール、アブラハムダービー。

 
これっぽっちも切れていないのが、イントゥリーグ、パパメイアン、ザ・プリンス、イリオス!、ロマンティックキュリオーサ。

 ジプシーキュリオーサ、オレンジジュース!、ワンダーウォール、バイア モーメントはまだまだ小学生程度。嫁入りは先の話。

 今後の展開は細々とブライダルで食い繋ぎ、母の日でも待とうかしら。という感じです。

 
と言っても我が家のじゃじゃ馬娘共は高値の時には頑なに出荷されるのを嫌い、市況が崩れた頃に手元を離れる。

 
行き遅れにも程があるぞ!







2008年4月3日(木)
「 人は世につれ、世は人につれ  








 乾式出荷(出荷の際に保水しないで箱詰めする)の我が家は、出荷量に合わせて集荷ぎりぎりのタイミングで箱詰めをする。

 

 先日、箱詰めをするにはまだ些か時間があり、他の仕事をする程は余裕が無い。という時があった。

 

 何を思ったか、お座敷の押入れを開け、アルバムを物色し始めた。

 

 自分の子供の頃の写真を探していたが、見ているうちに祖父のアルバムが出てきた。

 

 若い祖父を興味津々で見ていると、祖父が牛で田んぼを耕している写真があった。

 

 今現在、我が家には水田はなく、田んぼの跡地に40年位前から父が温室を建てだした。

 

 最近、我が家の温室の周辺にある田んぼが、次々と宅地になってゆく。

 

 一体、どこにそんなに人間がいるのかは分からないが、祖父の写真では一面田園風景だったのに、今や住宅展示場の様だ。

 

 農家の高齢化も進み、担い手もいないのだろう。

 

減反政策など無くても、放っておいても農業は徐々に衰退していくだろう。

 

 私には想像も出来ないが、先祖代々受け継がれ、一族を養ってきた田畑が重機で潰されていくのを見ているのは、一体どんな気分だろう?

 

 バラの温室を建てる時に、父はやる気に満ちていただろうが、祖父はどう思っただろう?

 

 試しに聞いてみても、寡黙な祖父は何も言わないかもしれない。

 

 物心付いた頃からバラの温室があって当然の私には、祖父の心内など計り知ることは出来ない。

 

 新たに定植した品種「オレンジジュース!」の手入れをしながら、育ってゆく住宅を目にする。

 

 「せめて我が家の土地だけは守っていきたいなぁ」と、ふと思う。

 

 因みに私のデビルスマイルは幼少からのものでした。

2008年4月2日(水)
「 home & away  

 昨日、アメリカのシアトルに遊学中の旧友が一時帰国をするというので、ノリで中部国際空港「セントレア」に迎えに行った。

 

 午後8時到着の便であったが、待てど暮らせど一向に到着ロビーに姿を現さない。

 

 午後10時を回った頃であろうか、桜前線も真っ青のピンク色のスウェットで現れた彼女は、こちらを見るなり捲し立てて身に降りかかった出来事を語ってくれた。

 

 先ずは、搭乗した航空会社の接客態度の悪さ、そして切れたスーツケースベルトへの航空会社の対応の悪さ、勝気な彼女はそこで一もめ、二もめあったらしい。

 

 その最中に麻薬犬に反応され、検査、尋問。

 

 やっと再開することが出来た彼女は、喉の渇きを潤す為にスポーツ飲料を喇叭でがぶ飲み。

 

 「お前はアクアクララかっ!?」とツッコミを入れたくなるくらいの飲みっぷりだった。

 

 日を同じくして、私の2つ年下の妹が東京から久しぶりに帰郷した。

 

 彼女も長いこと東京の医大に看護士として勤めているが、この度沖縄の系列病院に依願移動になったらしい。その間の僅かな休暇を利用して帰省したようだ。

 

 地方での過疎化が叫ばれるが、夢や仕事を求める若者が都市部や県外、はたまた国外に旅立つのに私は大いに賛成だ。

 

 衰退や淘汰も決して悪いことばかりではない。と私は思う。

 

 しかし、根無し草にはなって欲しくない。

 

 如何に枝が長く伸びようとも、大きな葉を茂らせようとも、根の無い植物は長くもたない。

 

 地元の家族や友人、山河を心のより所として、大きな世界で活躍してもらいたいものだ。

 

 彼女達が根を張れる土壌を、私達地元に残る者が耕していきたい。

 

 いつ彼女達が心の休息を取りに戻ってもいいように。

 

 その時はお土産を必ず忘れないようにしてもらいたい。でかいのがいいんだ。












2008年3月27日(木)
「 紆余曲折  








 私は高校を卒業してからというもの花業界にどっぷり浸かっている。

 

 驕った言い方をすれば進路を決め、そこに向かって真っ直ぐ進んで来た訳だが、それが正解かは果たしてわからない。

 

 今、バラの仕事が出来ていることは、誇りもあり、満足もしている。

 

 しかし、今に到達する前にもっと回り道があった方が正解かもしれない。と思う時もある。

 

 「正解」という言葉を使う時点で最早誤っているのかもしれないが・・・

 

 目標があって、回り道もせず目標に突き進むやり方も正攻法ではあるが、人生に本当に無駄な時間があるとは思えない。

 

 ぼんやりとした目標があるが、大回りをして人生経験を豊かにしてから、その道に進むのも有効であろう。

 

 大きな目標は見つからないが、それでも毎日必死に生きていれば得るものも大きいだろう。

 

 どの生き方がどのような結果をもたらすかは、全く持ってわからない。

 

 「先に展開を求め、後に緊湊に至る」という言葉がある。

 

 まずは大きくゆったりとした視野で物事を理解し、その後自らの中で研ぎ澄ましていく。といった意味である。

 

 私から見れば、当初は何も目標が見つからず迷い、色々な事をしてみた結果、多くの人や経験に会え、その後大きく花開く生き方も魅力的だ。

 

 つるバラの性質を持つ我が家の「アブラハムダービー」もよく伸び、花丈3mを超えるものもあり、ぐにゃぐにゃに曲がりながらも、目を奪われる美しい花と心打たれるような香りを放つ。

 

 彼女を見ていると、曲がることに何の畏怖も恥じも感じない。

 

 むしろ、人工物のように直立不動でいることのほうが、不自然にすら感じる。

 

 そう!そうなのだ!天然パーマで何が悪い!!

2008年3月21日(金)
「 伝導  

耳までが酸っぱくなるほど、原油価格高騰が取沙汰されている。

 

 何れは枯渇する資源なのだから、何時までも脛をかじっている訳にもいかない。

 

 出来ることの一つとして、ヒートポンプ(エアコン)を導入してみた。

 

 1200坪に2台。

 

 手始めに試験と言ったところであろうか。長野県下での導入は初である。

 

 メーカーは農業用エアコンに力を入れ始めている日立。

 

 農業資材として生産されていない為だろうか、未だ何かと不具合は多い。システム、着工の点においても改善、考慮の余地は見受けられる。

 

若輩者の戯言ではあろうが「え?なんでそうでなくてはいけないの?」ということは固定概念の中にしばしば産み落とされる。

 

広島の今井さんが考え出した「エコモード」というのも、固定概念から解き放たれた思考だと感嘆する。

 

細かい話をしても詰まらないので、我が家のブログには記さないが、除湿が出来れば高温多湿の日本での栽培に向かないバラもいいものが生産できる。

 

それに最も嬉しいのは、ボトやベト病を出し、折角成長したバラたちの首をもいで捨てる。という精神衛生上もよろしくない行為をしなくていいとなれば、我々生産者にとってもいいことだろう。

 

ヒートポンプに期待はしている。

 

火力、原子力に頼った発電では、今一ピンとこないが、電気は意外と簡単に生み出せるエネルギーだ。

 

 下敷きやセーターでも電気は生み出せる。でんじろう先生万歳だ!

 

 その点において私などは中部電力で働いてもいいくらいのパチパチ君(静電気野郎)だ!

 

 しかも、打たれ弱いので車のドアで「パチッ!」とすると予想以上に叫喚してしまう。

 

 この電気を地球の未来の為に使ってもらいたいものだ。








2008年3月17日(水)
「 Groetjes  








 3月も下旬に差し掛かる。

 

 我が家のバラも剪定明けの大量出荷を終え、残るはプリンセスオブウェールズとアブラハムダービーのイギリス生まれの暢気なお二方だけだ。

 

 この時期にかかわらず良く「年が明けたと思ったらもう○月!一年なんてあっという間!」などという声を耳にする。

 

 年齢を重ねるにつれ、体感時間は変わるのだろうか?

 

 私はそう感じたことが一切無い。(若い証拠であろうか?)

 

 記憶が残っている辺りから今日まで時間は常に一定に感じている。

 

 もう7年前になるがオランダに住んでいた。

 

 最近、当時1ヶ月ほどホームステイでお世話になっていた家の娘とe-mailで文通している。

 

 久々のオランダ語に少々苦戦はしているが、凡小な私の唯一の取柄と言うべきオランダ語が、脳の片隅にしまってあった思い出のアルバムを刺激する。

 

 7年前と言えば信州の大祭の一つ「諏訪大社・御柱祭」は7年に1回。生まれたての赤ちゃんも小学校入学。

 

 体感時間安定型の私にとっては、遥か昔の思い出だが、今も鮮明に当時のことは覚えている。

 

 当時、バラについての知識などほとんど無かった私が、出会ったバラのうち2品種が現在我が家で生産中の「ベンデラ」と「イリオス!」だ。

 

 「縁は異な物、味な物」とはよく言ったものだ。

 

 7年たって私も少しは成長したのだろうか?

 

 成長しているかどうかは不鮮明であるが、体験したこと、出会った人々は紛れも無く私の肥しになっているだろう。

 

 その証拠に腹回りには、いかなる食料危機にも耐えうる保存肉を蓄えている。

 

 精神は子供。体型は中年。2008年はギャップを大事にしていこう!

2008年3月10日(月)
「 理想と現実  

 先週はセリにも上場していたのに、今週は一本の出荷も無い。

 

 小売にしても宴会需要にしても安定していない供給には信用はおけない。

 

 そんな事は百も承知だが、なかなか難しい。

 

 特に休眠明けの出荷は一発切りになってしまう。

 

 休眠入り前に調整しても何だかんだで、採花時期が揃ってしまう。

 

 生産者によっては母の日や卒業シーズン、転勤、退職時期に故意に大量出荷を当てる方もいる。

 

しかし我が家のようにブライダル系の品種を多く持ち、その後の安定供給をしようとすると数日の内に大量に出荷して、その後暫く出荷の谷間となるのは得策ではない。

 

再三記すが、そんな事は百も二百も承知だ。(でも、できないだもん!)

 

そういった訳で今週大量に出ているイントゥリーグ、ロマンティックキュリオーサ、パパメイアン、ザ・プリンスは来週いっぱいくらいで激減します。

 

その代わりイリオス!とプリンセスオブウェールズ、フラジールあたりが出ます。

 

ご意見、ご感想などは一切受け付けません。

 

バラに何を言ったところで彼女達は美しくこちらに微笑みかけてくれるだけですから。

 

私どもバラ屋ができるのは、バラが育つ手伝いをして、採花をし、出荷することしか出来ませんので。

 

バラのせいにして、自らの技術力の無さを棚上げしているとご指摘のあなた!

 

ご名答!