「私、結婚するの。」
出し抜けに聞かされた言葉に、哲也は言葉を失う。
2年前に別れた彼女のことを忘れたことは、一度もなかった。
頻繁にではないが、たまに連絡も取っていた。
心の何処かでは、「元鞘に戻るのではないか。」という淡い期待もあった。
自分の短所を鋭く指摘され、プライドの高い哲也は別れを切り出した。
5年も付き合っていたのに、雪絵もあっさり承諾した。
哲也にとっては、想定外であった。それでも引けなかった。
走馬灯の様に、別れ際の記憶が蘇えり、また我に返る。
「そっか・・、じゃあお祝いに飯でも行こうか?」
断られると思ったが、雪絵はまたしても、あっさり承諾した。
久し振りに会うと、雪絵はパーマをかけ少し大人びた雰囲気になっていた。
他愛も無い話ばかりをして、哲也は結婚の話題には深く踏み込まなかった。
店を出ると雪絵が
「こんないい女を振ったなんて、あなたもバカね。」と皮肉めいて言った。
「そうだな。」とふてぶてしく笑ったが、本当にそう思った。
雪絵の顔を見つめるも、出る言葉もなく、別れを告げる。「またな。」
近くに停めてあった車へ向かうが、思い返し、車から花束を出して雪絵を追いかける。
「渡すの止めようと思ったけど、これ。」少し荒い息遣いで、花束を渡す。
「バカね。」と言い、雪絵はあっさり笑って受け取った。
部屋に戻ると、街灯と窓につく雨粒の影が、部屋を水槽の中のように染めていた。
彼女に渡した花と同じ花がコップに入り、こちらを眺めていた。
哲也も腰掛けて、まとまらない思考を止めて花と見詰め合った。
ありふれた毎日を特別な一日に
思い出が優しく花開くプリンセス オブ ウェールズ
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